車椅子との出会い
天井から吊って立つだけのリハビリが物足りなくなってきたかな、と思うようになった
目の前に置いてある餌の干し草の箱を角をぶつけてひっくり返す
10Lの生理食塩水入りのバケツを倒されたときは泣いた
寝床にいるときも下に敷いてあるペットシートの端を食べようとしたり
いたずらをするということは元気が出てきた証拠でそれは喜ばしいことなのだけれども
力がみなぎってきているような気もするが
とは言っても相変わらず立ち上がることも歩くこともできないのだ
アルタのフレーメン顔
日中は5~6時間アルタにかかりきり
夕方アルタが寝床に入るとネットを漁る日が続いた
あるとき四輪車の犬用車椅子の画像を見つけ、これはいけるかもしれないとピンときた
後脚だけが悪い動物のために二輪の車椅子はよく見かけるが
四輪なら前脚もおぼつかないアルタにも乗れるかもしれない
さいわい工房の場所も行けない距離ではない
翌日電話をし、ヤギだからといって断られることもなく採寸の予約を入れてもらい
アルタを車に乗せて片道2時間半、特注のヤギ用車椅子は2週間後に完成のはこびとなった
車椅子納車の翌日のアルタは外で嬉しそう
室内リハビリ一ヶ月
アルタを母ヤギと引き離して玄関で飼うようになったが
メーメー鳴いて騒いだのははじめの1時間くらいで
すぐ人間を新しい群れの仲間のように思ったらしくおとなしくなった
玄関の隣は居間でガラス戸越しに人の気配が感じられるのか静かにしていてくれて助かった
両親と再び交流できたのは車椅子で外に出られるようになってから
吊られて立つだけのリハビリの毎日
寝床のアルタにハーネスを装着するのも大変な作業だった
寝床にいる間にした尿で腹が濡れてしまっているのでタオルで拭く
胴回りと下半身にハーネスのベルトを廻す際は途中で寝返りを打ってもらうのだが重いし機嫌が悪いと角をぶんぶん振って殴ってくる
立ち上げるのもひどい重さで、転倒したり腰や肩を痛くしたりした
30kg足らずの体重でこれではもっと成長したらどうしよう
アルタの父親は60kgほどある。同じくらいになったら…
B医師が言っていたように天井に滑車を取り付けなければ…
最初のころアルタは四肢に力が入らずぐったりと紐に体重をかけてしまいだらーんとしていた
ハーネスを持って体を持ち上げ、脚の位置を直してしゃんとさせることを繰り返す
ちょっと目を離すとまただらーんとなってしまう
おしっこをしそうになると(アルタは糞→尿の順に連続して排泄することが多い)すかさずペットシートを敷いて受ける
吊っている間は片時も目が離せなかった
試しにアルタの好きな草を採ってきて差し出すと急に目を輝かせて四肢をシャンとさせるのでこれがリハビリのときの習慣になった
最初は5分、だんだん1時間、2時間と立つ時間を長くしていった
好物で機嫌を良くすれば立っている時間も伸びる
時々ハーネスで歩行させてみようと試みるも相変わらず足がもつれて全くだめだったのだが
それでも四肢を広げて立っているアルタを見ると希望が沸いてくる気がした
元通りにならなくても、生き続けてくれるかもしれないという希望である
玄関にずっといてもいいじゃないか
家の中に大きいヤギがいるというのもなかなか楽しいものだ
父親ヤギ(左)と
食事・ベッド・排泄など
犬にはたいへん申し訳ないがすぐさまそのベッドを貸してもらいたい
一刻の猶予もないと焦っていたのでネットで取り寄せ到着一週間後などはとても待っていられずハーネス以外は家にあるものでまかなった
アルタは生後4ヶ月とはいえ大型犬並みの体格なのでサークルやケージに入れるのはうちでは無理
古い家で玄関が広いのでそこにいてもらうことにした
下にペット用トイレシートを敷く
4Lサイズのシートだが体が大きいぶん尿の量も多いので一日何度か取り替える
フンはこまめに手で拾った
餌は以前からの干し草(オーツヘイ)を隣に置くと首を伸ばして食べる
水は犬猫用の浅いステンレス皿に入れて与えたがあまり飲まなかったりひっくり返すなど心配な状況だった
寝たきりになった犬猫でよく聞く問題が、体が汚れるのを嫌って尿を我慢してしまい膀胱炎から始まり腎臓を悪くし、やがて他の臓器も悪くなるというもの
アルタも尿意をもよおすと体をもじもじさせ、なんとか立って排泄したいようだが
そのまま垂れ流すしかなく、お腹や後脚が濡れてしまう
そのせいで水を飲むのをためらっているのかはわからないが、暑いのに脱水症状が心配である
なのでベッドにいるときはシリンジで強制的に水を飲ませたりしていたが
自主的に飲んでもらうために生理食塩水を与えることにした
ヤギは意外と甘いものが好きで、薬を飲ませるときに砂糖水に溶くとごくごく飲んでしまう
B医師に相談のうえ水1Lに砂糖20g・塩2gと薄めに作って与えると飛びついて飲み干してくれたので一安心した
食欲が衰えないのが当時唯一の希望、頼みの綱だった
室内で介護・リハビリ開始
犬用フルボディハーネスを使った歩行訓練はうまくいかなかった
立てなくなった初めの頃のアルタは後脚に全く力が入らない状態で
ハーネスで持ち上げながら一緒にヨロヨロ進もうとするのだが
飼主もろとも足がもつれて転んでしまう
歩くことよりまず立つことから始めよう
そこでハーネスを着けて上から吊ろうと考えた
B獣医師「立っているだけで筋肉を使うので効果がある。一日10分でもいいから立たせて」
うちは古い民家で玄関土間に太い梁があるので
そこにハンモック用の金具付きひもをかけてみた
再現写真のモデルはラブラドールレトリバー犬(当時のアルタより体高が10cmほど低いのでひもが届いていない)
当時はアルタの病状に悲観的でとても撮影する気にならなかったので室内での写真は一枚も残っていない
こうして回復日記を書けることは夢のようである