暗中模索

B獣医師が言う

「寝たきりにせずに立たせる訓練をしてください」

筋肉が衰え、食欲・気力がなくなるとやがて衰弱し死んでしまうという

助かった例はあるのか聞くと

「幼稚園で飼われていた大きなオスのヤギがいましてね」

「先生方が交代で寝返りをうたせたり、体が重いからわたしが滑車を作ったりしてね」

「それでも一年ほどは持ったんです」

…結局死んだのか!

立たせるといっても大型犬(25kg)ほどあるアルタをどうすればいいのだ

B医師は産業獣医師なのでペットとして飼われていたヤギは件の幼稚園のものしか知らず、牧場のようなところのヤギは安楽死させることがほとんどだという

暗澹たる気持ちでネットを漁ったがリハビリのヤギの画像で参考になるものはなかった

 

 

当時の私は腰麻痺について犬の変性性脊髄症のようなイメージを持っていた

このまま全身に麻痺が進んで死に至るといったものである

しかしB医師が言うには食欲減退などは腰麻痺の症状ではなく二次的なもの

生きる気力を失わせなければ回復も見込める、という

 

ならば一日たりとも寝たきりにはできないと焦り、とりあえず大型犬用のフルボディハーネスといったようなものをネットで注文した

これを着けて肩にかけて持ち上げながら一緒に歩く練習をしようと考えたのである

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写真は2015年10月末の歩けるようになった日のアルタ

体が大きくなりハーネスはきつきつ

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立てない、歩けない

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駆虫薬の注射を受けたにもかかわらずアルタの足腰の状態は思わしくない

2度目、3度目の注射を受けても良くなるどころか

7月下旬にはついに立ち上がることができなくなってしまった

最初の異変から10日足らずの間のことである

早期に治療を受ければ軽症で済むとヤギの本に書いてあったのに

早期に見えたがもう手遅れだったのかとひどく落ち込んだ

 

 アルタと母親の小屋。父ヤギはもう一つの小屋にわかれて暮らしていた

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アルタは 夜この小屋で寝て日中は外で草を食べる生活をしていたが

立てなくなり、糞尿で体が汚れるようになってしまってはもうここでは世話ができない

アルタは生まれてから母親と離れたことがなくまだ乳も飲んでいるのに可哀想だが

思い切って母親と離し、人間の住む母屋の中へ入れることにした

 

後肢のふらつき、転倒が始まった

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2015年7月、アルタ生後4ヶ月

ヤギたちを見ていて、あれ?おかしいなと思うことが多くなった

アルタがよく転ぶのである

夏になり蚊が出るようになり腰麻痺の不安は常にあった

だが医者が言ったようにアイボメックトピカルをちゃんと月に一度滴下している

だからまさかそんなことはあるまい…

しかし症状はあっという間に進行した

ほんの2、3日の間に後脚がはっきりとふらつくようになり何度も転ぶ

昨日まで飛び乗っていた台の上に今日は上がれなくなっている

溝に足を取られ動けず聞いたこともない猫のような叫び声を上げる…

これはただごとではない、完全に腰麻痺ではないか

かかりつけのA獣医師に電話をしてみるが、出ない

海の日の3連休だったが家畜衛生センターに電話するとつながった

誰でもいいからヤギを診てくれる獣医師を紹介してくれと訴えると

隣の市のB獣医師を紹介された

B医師はその日のうちに往診してくれたがアルタを見るなり「腰麻痺です」と言う

腰麻痺の原因となる線虫を殺す薬を注射してもらい、飲み薬など処方してもらう

「2、3日でよくなることもあります」

B獣医師の言葉にすがるような思いでそれからの数日アルタを注視した

だが良くはならず、むしろ悪くなっていったのである

 

 

 

 

なぜ腰麻痺になったのか

2015年10月初旬、車椅子でリハビリ中のアルタ(中央)左が母で右が父

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飼主としてアルタを腰麻痺にしてしまい、後悔につぐ後悔、自責の念しかない

ヤギを飼うにあたって色々本を読み、腰麻痺についても知っていたのになぜ防げなかったのか?

かいつまんで話すと

 

私「腰麻痺の予防注射をお願いします」

A獣医師「アイボメックトピカル使ってるでしょ?あれでokです」

私「念のため注射もしてほしい」

A獣医師「イヤです」

私「!?」

A獣医師「意味がないから」

 

A獣医師は県の家畜衛生センターで紹介された地域の産業動物獣医師で

2014年夏、アルタの両親であるオスとメスヤギをもらってきてから世話になっていた

アルタの両親は2014年夏に腰麻痺の予防注射をA獣医師にしてもらっている

が、今年は注射を拒否するという

アイボメックトピカルというのは皮膚に滴下する薬でダニ、シラミから線虫などの内部寄生虫にも有効なものだが

汗で流れたりして効き目にムラがあるような気がして不安だった

しかし「イヤです」とまで言い切られ、それ以上押せなかったことは痛恨の極みである

不安は的中し、アルタは発症した

親ヤギ2頭は無事だった

去年注射を受けたことで抗体ができているのかもしれない

その後家畜衛生センターに理由を話し、別の獣医師を紹介してもらい

アルタは治療を、親ヤギには予防注射を受けてもらった